大判例

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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1595号 判決 1950年3月06日

被告人

大橋正一

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋地方裁判所岡崎支部に差戻す。

理由

職権を以て、原判決の理由の当否に付いて調査すると、原判決は原判示第一の事実として、被告人は昭和二十二年十月三十一日名古屋財務局碧南出張所詰雇員に採用され、昭和二十四年三月三十一日辞職するに至る迄同所に勤務、庶務主として同所の監理保管に係る元海軍岡崎航空隊跡に在る建造物竝びに工作物等の監視の任に当つていた者であるが、(一)昭和二十三年二月中旬頃前記元海軍航空隊(愛知縣碧海郡矢作町所在)兵舍内にあつた前記碧南出張所保管にかかる「ケンバス」約八百五十坪を擅に矢田棟治に代金七万円で拂下名義で売却し以てこれを横領し、(二)同年四月下旬頃前記同兵舍内にあつた前記出張所保管の「ケンバス」約百坪を擅に住田宗太郞に代金三十万円で拂下名義で売却し以てこれを横領し、(三)同年七月下旬頃前記兵舍内にあつた前記出張所保管の「ケンバス」約七十八坪を擅に大參新次郞に代金二万五千円で拂下名義で売却し以てこれを横領し、(四)同年十一月下旬頃前記元海軍航空隊跡にあつた前記出張所保管の淨水道施設建造物三十二坪位を擅に坂富吉に代金五千円及び白米三斗で売却し以てこれを横領し、(五)同年十一月下旬頃前同樣その監理にかかる元進駐軍コーヒーハウス一棟約百二十二坪を擅に黒柳関次郞に対し、代金一万三千円で売却し以てこれを橫領した旨の各事実を摘示し、之が孰れも刑法第二百五十三條に該当するものと説示して居る。処が刑法第二百五十三條所定の業務上橫領の罪は、業務上犯人の占有する他人の物を橫領するによつて成立するものであるから、同罪の判示に際つては、当該物が犯人の業務上占有するものであることを特記しなければ、之が同罪を構成するものであるか否かの理由を知るに足りない。然るに此の点に関する原判決の判示は曩に掲記した如くであつて、其の冒頭に於て被告人が原判示名古屋財務局碧南出張所に同所詰雇員として勤務中、庶務主として同所の整理保管に係る元海軍岡崎航空隊跡に在る建造物竝工作物等の監視の任に当つていた者である旨判示して居るが、之に依つては被告人が原判示名古屋財務局碧南出張所の監理保管に係る元海軍岡崎航空隊跡に在る建造物竝工作物等の監視の任に当つていた者であることを知り得るに止り、又右冒頭の原判示事実と其の余の前掲原判示事実とによつても、被告人が果して原判決に所謂被告人の橫領物である原判示第一の(一)乃至(五)の各物件を業務上占有して居たことを肯認し得ない。却つて右原判示第一の(一)乃至(五)の各物件が孰れも原判示名古屋財務局碧南出張所保管のものである旨の判示自体に徴すると同各物件は孰れも被告人のみが業務上占有して居たものでないことが窺知され、殊に此の点に関する原判決挙示の証拠によるも、右各物件を被告人のみが業務上占有して居た事実は之を認め難く、被告人が他の者と共同して或は重疊して、右各物件を業務上占有して居たのではないかとの疑をさえ、之を避け得ないのである。若し夫れ右各物件は被告人のみが之を業務上占有して居たものでなく、被告人が他の者と共同して或は重疊して之を業務上占有して居たに過ぎないものとすれば、被告人が右各物件を他の占有者全員と共謀して擅に処分した場合に限り、被告人の該所爲は業務上橫領の罪を構成するも、被告人が右各物件を他の占有者を排し單独で擅に処分した場合であれば、被告人の該所爲は業務上橫領の罪を構成することなく、窃盜の罪を構成するものと謂わなければならぬ。之を要するに原判決の理由中原判示第一の業務上橫領の点に付いては、右説明のように原判示第一の(一)乃至(五)の各物件を被告人が業務上占有して居たものであることに関し、之が説示に欠けるところが存し、此の点に於て原判決には尠くとも理由を附しない違法があるものと断じなければならぬ。

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